書評/感想 『アルケミスト 夢を旅した少年』僕は職場の先輩に無意識に説教するようになった。
僕は無意識に職場の先輩に説教を垂れて居た。
この本の内容を引用して。
僕は中小零細企業で働くサラリーマンだ。
ときおり社長と、同じ部署の先輩と3人で晩御飯を囲む。
その時の話題は専ら、どうやったら会社の売り上げが伸びるか。
「どうやったら会社の経営がよくなるか。
一従業員の立場だが、それを考えて話して欲しい。」
社長は僕たちを雇って働かせつつも、ただそれだけではなく経営的な考え方を話し合うことでより良い会社にしていこうという試みから僕たちを食事に連れていってくれる。
時折事務所中に響き渡るほど怒鳴り声が大きい社長は周囲から畏怖の念を抱かれている。
そして僕の先輩はなかなかストレスに弱いタイプだ。
3人での食事もいつも緊張した様子でこわばって居る。
その様子を見て僕は思った。
「『大いなる魂』を知らないとはこのことかもしれない」
『アルケミスト 夢を旅した少年』の作中にはしばしば『大いなる魂』というキーワードが出てくる。
なんともぼんやりした言葉で、正直僕もそれが何なのかハッキリと捉えていない。
けれど人によっては「第六感」「千里眼」「勘の良さ」「神の声」と考えることだ出来るかもしれない。
物語の舞台はスペイン
羊飼いとして生計を立てる主人公の少年はある日、宝物の在りかを示す夢を2度見る。
道を示してくれる人に出会い、学び、現在の自分と別れ、恋をして、闘い、夢に生きて宝物を探す。
作中では成功と幸福の象徴として宝物が描かれて居るけど、僕にとっては少年の成長こそが宝物だと感じた。
『学びや気づき』を与えてくれる存在と何度も触れ合う旅に少年は次第に「大いなる魂」を感じて神のような存在と対話をして愛を教えるまで成長したのだから。
旅と成長というテーマは、作者のパウロ・コエーリョ自身がその時の生活を投げ捨てて旅に出るという背景から生まれたもの。
音楽・作詞・プロデュースという才覚に恵まれながらも、彼自身が考える「宝物」を探して何度も旅に出るということを繰り返して居た。
舞台がスペインというのも、彼が実際に巡礼をした土地について書きたかったからだと思う。
作品自体がパウロ氏の出世作となり、作中の少年も成功と幸福と夢へ向かって旅をした。
パウロ氏がこれを書いて居たときはまだ無名だったかもしれないが、このように作者の登場人物が結果的にリンクしているというのはまるでロシアのマトリョーシカ人形のような関係になっている。
僕が作中で一番印象に残って居るのは次のセリフだ。
「幸福の秘密とは、世界のすべてのすばらしさを味わい、しかもスプーンの油のことを忘れないことだよ。」
作中より引用
物語の中で少年に教えを説く老人が、少年に理解をさせるために小話をするシーン。
細かい説明は省くが、世界の素晴らしさとは幸福、名声、お金、出世などの象徴、
スプーンの油とは僕たちの日常の生活や目の前の幸せのこと。
それは仕事だったり、友達だったり、恋人だったり、趣味だったり、家族だったりする。
僕は中小零細企業で働くサラリーマンだ。
ときおり社長、同じ部署の先輩と3人で晩御飯を囲む。
そして僕の先輩はなかなかストレスに弱いタイプだ。
「会社をよりよくすることで得られるボーナスや評価が『世界の素晴らしさ』とするならば、『スプーンの油』は目の前の仕事のことかもしれない。」
僕は社長と話す準備をして緊張している先輩にこの話をした。
先輩は少し緊張がほぐれた様子だった。
物語の中で少年に教えを説く老人がした例え話に感銘を受けた僕。
現実では僕が老人のようになり、先輩が少年のような立場でその話を聞く。
まるでロシアのマトリョーシカ人形のようだった。
作中の舞台はスペインなのに、だ。
3/13追記
この作品に影響を受けて、ACIDMANというバンドが曲を書いて居る。
元ギタリスト・バンドマンとしてはこういった形で書籍と音楽が繋がるのが嬉しい。